アメリカの市民生活

有害な食品添加物を追放へ

アメリカ政府が有害な食品添加物の追放に動き出しました。食品企業のインチキを厳しく監視する方針も表明。トランプ政権は食品の安全にどうやら本気のようで

旗振り役はケネディ長官

 旗振り役は、ロバート・F・ケネディ・ジュニア保健福祉長官。
 ケネディ長官は昨年の大統領選挙のときから、トランプ政権の閣僚に任命されたら、食品添加物の規制強化と食品の安全性強化などに取り組むと公言していました。
 そのケネディ長官は3月11日、ペプシコやW Kケロッグ、クラフト・ハインツなどアメリカを代表する食品企業のトップらと保健福祉省内で初会合を開きました。
 会合は非公開でしたが、ケネディ長官の発言メモを入手した複数のメディアの報道によると、長官は、食品から有害な合成着色料を取り除くことがトランプ政権の「強い願望であり、喫緊の優先課題」と強調。
 そして食品企業のトップらに、速やかに合成着色料の使用削減に取り組むよう要請し、できない場合は権力の行使も辞さないと警告しました。
 会合の後、ケネディ長官はSNSに次のように投稿し、成果をアピールしました。
 「国民、とりわけ子どもたちの健康を守るため、食品の安全性や徹底した透明性を高めることを話し合った。素晴らしい議論だった。政府は消費者からの信頼をさらに得られるよう、食べ物から毒を取り除いていく。さあアメリカを再び健康にしよう」。
 投稿には、会合に出席した北米ペプシコのスティーヴン・ウィリアムズ最高経営責任
者(CEO)やW Kケロッグのゲイリー・ピルニックCEO らと一緒に撮った写真が添えられていました。
 CEO らはみな笑顔ですが、内心は青ざめていたに違いありません。
 トランプ政権は1月の発足以来、政権の意に従わなければ相手が誰であろうと権力を振りかざして容赦なく脅し、屈服させてきたからです。

赤色40号、黄色5号など対象か

 政府はバイデン前政権のときから有害な食品添加物の追放を進めていました。
 トランプ政権発足直前の1月15日には、食品医薬品庁(FDA)が、合成着色料の一種で発ガン性が指摘されている赤色3号の使用を禁止すると発表し、日本でもニュースになりました。
 赤色3号以外にも専門家や消費者団体などが健康への影響を懸念する食品添加物はいくつもあります。
 例えば、赤色40号や黄色5号、黄色6号は、赤色3号と同じく石油が原料です。赤色3号ほどの危険性は今のところ確認されていませんが、規制すべきだ、との意見は多くあります。
 ただ、ケネディ長官が会合で具体的な食品添加物名を挙げたかどうかは不明です。

抜け穴を塞ぐ

 同じ11日、ケネディ長官は、食品企業が新しい原材料や食品添加物を商業利用する際のルールを見直すようFDA に指示したと発表しました。
 アメリカでは連邦食品医薬品化粧品法に基づき、新たな食品添加物は原則、それを市場に流通させる前にFDA の安全性審査と認可を受けなければなりません。
 ただし、その手続きを回避できる例外規定が設けられています。
 簡単に言うと、自分たちで安全性を調べて安全性を証明することができたなら、FDAの審査を回避できるという規定です。
 食品企業の多くはこの例外規定を悪用し、安全性の不確かな食品を販売し続けていると、一部の専門家や市民団体などが長年、問題提起してきました。
 ケネディ長官は声明で例外規定に言及し、「原材料の開発製造企業やそれを支援する企業は、あまりにも長い間、このルールの抜け穴を利用し、安全性が必ずしも証明されていない原材料や化学物質を、FDA や国民に通知することなく市場に流通させてきた」と企業を厳しく批判。
 そして、「この抜け穴を塞げば、原材料の安全性確保を通じてアメリカの食品流通を元通りにでき、最終的にアメリカを再び健康にすることができる」と強調しました。
 ケネディ長官は長年、弁護士として大企業と闘ってきただけに、国の制度や行政のカラクリに詳しく、食品添加物の認可の抜け穴も前から知っていたと思われます。
 また、食品の安全性の問題に対する関心は非常に高く、アメリカの食品安全規制が欧州に比べて緩いのは、FDA が大企業の影響を受けているからで、食品の安全性を強化するためには政治から大企業の影響力を排除することが必要だと訴えてきました。

日本政府への示唆も

 こうしたケネディ長官の食品安全行政に関する考え方や具体策は、日本の食品安全行政にとっても非常に示唆に富んでいます。
 例えば、日本では今、「機能性表示食品」の安全性や有効性が問題になっていますが、その原因は政府が安全性や有効性の証明を企業任せにしているからです。
 実際、消費者庁は「機能性表示食品制度とは、国の定めるルールに基づき、事業者が食品の安全性と機能性に関する科学的根拠などの必要な事項を、販売前に消費者庁長官に届け出れば、機能性を表示することができる制度です。(中略)国が審査を行いませんので、事業者は自らの責任において、科学的
根拠を基に適正な表示を行う必要があります」とホームページに書いています。
 また日本の食品安全ルールが欧州どころかアメリカに比べても緩いのは、大企業が政治献金を通じて政治に影響力を及ぼしているからです。
 日本の食品安全行政にもケネディ長官のような人物が必要です。